冬に美味なトラフグとYBMさん

コンサルタント・技術士(水産)
久原 俊之


はじめに

 季節外れの話題で申し訳ありませんが、このたび、YBMさんのご協力により、日本で初めて成功した陸上閉鎖循環式水槽による養殖トラフグについて、魚類の養殖などとはあまり関係のない異業種の皆様へ、この成果を紹介できる機会をいただき大変うれしく思っています。

トラフグの魅力

 さて、「フグは食したいし命は惜しい」といわれますとおり、この種類には、猛毒を持つものが多いようです。そこで、魚食民族の日本人でさえ特異な食材とみなし、やもすれば賞味する人を変人扱いにすることさえあります。
 したがって、この魚に対する評価は大きく分かれるところでありまして、本当はさほど美味ではないが珍味なるが故にと言われたり、通人でなければ評価できないなどさまざまであります。
 しかし、私は、秋の彼岸から春の彼岸までは鍋物として、刺身としていずれも最高であり、料理人には誇りが感じられ、文化の香りがして値段も高いので、魚の中では王さまであると信じきっております。

装置の偉力

 この魚をホルマリン等の薬浴で海を汚すことなく、安全に陸上の水槽で飼育できるならばと考えるのは、水産関係者に限らずともだれしも抱く発想ではないでしょうか。
 ところが、これが大変に難しく、短期間の飼育に成功した例はあっても、多くの魚に十分な餌を与え閉鎖水域で出荷サイズまで育てた例はありません。
 それが今回、、YBMさんが開発された海水再生装置(キャビテーションシステム)の導入で、初めて可能になりました。
 昨年9月から佐賀県東松浦郡鎮西町の萬坊・水産事業部で飼育されていた約800尾のトラフグが、この装置の稼動し始めた今年の3月中旬ころから急に成長が早くなり4月中旬には、1Kgくらいの大きさまで成長いたしました。そこで、トラフグの本場下関市の唐戸魚市場へ試験出荷されました。価格は、彼岸過ぎの季節外れということもあってやや安値でしたが、販売後の評価は、競り場の責任者から、また仲買人から「日本一の養殖ふく」という有難いお墨付きをいただきました。

魚種の生態的相違

 大勢の人が集まれば空気が汚れます。狭い水槽で沢山の魚に餌を与えて育てると水が汚れるのは当然のことです。しかしこの汚れ方には魚種によって差がありまして、汚染物質に対する反応にも違いがあるようです。トラフグは、比較的低酸素に強い魚といわれておりますが、反面、呼吸作用でエラから排出された、炭酸ガスや、アンモニアガスには敏感であって、これらが増加すると次第に元気がなくなり、ストレスが蓄積するようです。YBMさんのキャビテーション装置は、この両方のガスを効果的に水中から除去できるようです。結果として、装置の稼動後は、魚が健康になり飼育状況は与えられた餌の摂餌速度が速くなり、所用時間は、従来の2分の1に、量は2倍食べるようになったのです。また、この装置には寄生虫の駆除や、殺菌能力があるなどほかにも未確認の効果が窺われますので、期待度は大きいと思います。

技術力の見直し

 海の環境問題は、環境ホルモンによる水産生物の生態異変や、魚族資源の減少など課題は多いようです。しかも、内容は複雑で、解決には莫大な資金と時間が必要と思われます。これからの企業内技術者は、ここの専門分野に没頭することなく、柔軟な思考力で幅広い高度な技術力を応用し、多面的に対応する必要があると思います。難問解決の糸口は、必ず存在すると思います。最後になりましたが、YBMさんの今後のますますのご発展とご繁栄を祈念いたしましてペンを置きます。ありがとうございました。

平成11年4月吉日